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埼玉住まいの会 研修旅行

***2つの街並みを歩く***
埼玉住まいの会2014研修旅行

 埼玉住まいの会の研修旅行はもう30年以上も続き、毎年秋の恒例行事となっています。
今年は、いつもの年より2ヶ月ほど早い時期の9月初旬、稲穂の実る群馬、長野方面を歩いてきました。
 この旅行は毎年いくつもの見所がありますが、「時を追う旅」でもあります。各地のすばらしい建築、街並みの中でも、古くからあるもの、そして最近出来たものなど時間的なスパンの広さを取り入れ、それぞれの場所で建築や街並みが出来たときや、今に至る時間を感じる旅でもあります。
 宿場や集落を歩くことは、この旅の中にほぼ毎回取り入れられ、今に息づく古い家並みを見て歩きます。今回は、海野宿と赤岩集落の2つを訪れました。
海野宿は、長野県にある北国街道の宿場町で、以前10年以上前にも一度来たのですが、そのときは、住んでいる人々の生活者の住まいに感動しましたが、今回は訪問者にとってもありがたい土産物店や地元の直売所、旅館などが数件出来ていて、ゆるぎない暮らしの中にも、来訪者を迎え入れる柔らかさが増したように思いました。火事などの際、隣への類焼をとめる「うだつ」が美しい漆喰で補修され、約650m続く街並みの際立った景観を作っています。
赤岩集落は、群馬県の中之条町にある、六合村(くにむら)の中心的集落です。かつては養蚕で栄えたこの地域は、人々の暮らしとともに、蚕の成育を尊重した空間を内部に持つ3層の建築が多く、その美しさに息を呑みます。家々は今も人々が住み、部分的な修復を加えながら、受け継がれた建築を今に伝えています。集落で出会う人々は皆親切に旅人を迎えてくれ、家の中まで招き入れて蚕とともに暮らす住まいの細部まで説明してくれました。

                                              埼玉住まいの会  手島 亙
 
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by sumainokai | 2014-09-10 12:48 | 手島 亙

2つの美術展

 ミヒャエル・ボレマンス展とラファエル前派展

 ベルギーの現代美術家ミヒャエル・ボレマンスの絵画を、北品川の原美術館で視ました。個展としては彼の日本初の展覧会で、原美術館で開催することを長く温めていたそうです。
 原美術館は、実業家 原邦造の邸宅として昭和13年(1938年)渡辺仁(上野 東京国立博物館の設計者)の設計で竣工したものを美術館に改装、昭和54年(1979年)に開館しました。現代美術の紹介にも意欲的に取り組む美術館です。その静かな佇まいは、ボレマンスの絵を鑑賞するのに適していると感じました。
 彼の絵は具象画といえると思いますが、写実を超えてなにか視る者に不思議な感覚を伝えてくるような絵です。その独特の構図や色や筆遣いなどから、静かであり小さい画面から何かを訴えてくるようです。日常的でありながら非日常を、どこにでもありそうな題材からどこにもないようなイメージを汲み出してくる独自の絵で、今までに見たことのないものです。

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 ラファエル前派展では、目当ての絵がありました。ぜひこの絵の前に立って視てみたいと思っていた絵です。ジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィーリア」。シェイクスピア作「ハムレット」の悲劇の恋人を題材にしたこの絵は、もう随分以前、何かの音楽関係の記事に載っていたときから気にかかり、一体どんな状況の絵なのか、実物はどんな大きさの絵でどんな風に描かれているのか、などずっと出会える機会を待っていたようなところがあります。
 実際に立ってみて、その絵の細密な描写や、150年以上たっているのに輝きを失わない色、なにより絵の構図や写実的でありながら超現実的なものとしてそこに存在する絵の大きな存在感を感じましたが、現実的には、美術館では多くの鑑賞者がこの絵の周りに集中し、視たい場所の確保は以外に難しいのです。斜めからや、遠くから眺めて、再び絵の前に立ってなどの工夫を凝らし、ようやく正面を確保、なるほどこう描かれているのかと納得し、そのあとで図録を眺めながら染入るように、感じるものの大きさに楽しむ絵でした。
 ミレイはこの絵を描くとき、絵の中央を残して、周囲の部分を現場で書きこみ、後日アトリエの浴槽にモデルを浮かせて描いて、合体させて完成したとのことです。そんな描き方がどこか超現実的なイメージを膨らませるのかもしれませんが、そんなことより、この絵の持つ力はずっと大きいと感じました。20年以上も前に視た雑誌の記事に挿入された絵の記憶が今に繋がり、鑑賞の楽しみをあらためて感じることができました。
 このほかにも、珠玉の作品ぞろいでご紹介したいのですが、力不足と紙面の都合で割愛させていただきます。

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ご紹介したにもかかわらず、ボレマンス展は3月いっぱいで終了、ラファエル前派展は明後日4月6日までと、
差し迫り本当に恐縮です。

                                    2014.4.4 埼玉住まいの会  手島 亙
by sumainokai | 2014-04-04 09:19 | 手島 亙

真下慶治記念美術館

 埼玉住まいの会恒例の研修旅行で、山形を訪れました。最上川が大きく蛇行する村山市大淀の岡の上に、この真下慶治記念美術館があります。地元出身の画家、真下慶治氏の絵を展示するこの小さな美術館は、村山市の市制50年を記念して建てられた建築ですが、この旅行の中で最も強く印象に残るものでした。押さえ気味のアプローチから中に入ると、集成材を見事に活用し、しかも切れのよい清清しい構造体に支えられたやわらかい空間に包まれます。そして少し進むと一気に眼下に開ける最上川の景色。空間の取り扱いの素晴らしさに加え、細部をみれば材料の選択や納まりに細心の配慮が施され、惹きつけられます。設計はやはり地元出身の建築家 高宮眞介氏で、このような美術館がこの場所に存在することが嬉しく感じられました。
 展示された真下慶治氏の絵はその多くが最上川の風景を描写したものですが、画家がこの土地に生き、この土地に浸ることを喜んで、その空気までを表現しているかのような印象を受ける絵でした。近くで見ると荒々しいタッチも、絵をはなれてみればくっきりと浮き上がり、水面に映る景色がさらに印象を強めます。建築と展示作品の両方に感動し、時間を忘れるひと時でした。
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by sumainokai | 2013-12-05 17:05 | 手島 亙

アントニオ ロペス展

 新盆で長崎を訪れた際、長崎県美術館で開催されていたアントニオ ロペス展を見ることが出来ました。東京(渋谷)と長崎と岩手の3箇所しか開催されない、彼の初の日本での展覧会で、これは幸運な出会いと感じ早速出かけました。今までも写実といわれる絵を数々見てきましたが、これほど感動したことはありません。写実とは何なのでしょうか?実際のものを写し取るということの意味をあらためて考えさせられました。
 彼の絵から受ける印象を言葉にするのはとても難しいのですが、何か大きなものを溶け込ませているような感じなのです。ただ対象物を写すというだけでなく、対象物との時間をともに過ごす事に意味があることを彼は語っています。画面に定着させる過程で足がかりとした目印の跡が残っていることや、焦点以外のところがいかにもあっさり描かれていることなどは、もはや問題にならない、絵の迫力というものが伝わってきます。ゆったりとした空間で、しばしロペスとの時間を過ごすことが出来ました。ビクトル エリセ監督の映画「マルメロの陽光」は彼の制作過程を追ったドキュメントで、これもぜひ見てみたいと思いました。

 
by sumainokai | 2013-08-22 21:28 | 手島 亙